活動報告
アジア太平洋地域の多くの国が現在直面している、または遠からぬ将来に直面する重要課題のひとつが、人口の高齢化です。日本国際交流センター(JCIE)では、2017年度より開始した「少子高齢化時代のアジアと地域協力」プログラムの初回の事業として、2017年8月15日、日本政府、ベトナム政府、人口と開発に関するアジア議員フォーラム(AFPPD)、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)、ヘルプ・エイジ・インターナショナル、日本貿易振興機構(ジェトロ)との共催で、本年APEC(アジア太平洋経済協力)議長国を務めるベトナムのホーチミン市において、アジア太平洋地域の高齢者ケアを考えるマルチステークホルダー・フォーラム「 Investing in Healthy and Active Aging for Sustainable Growth—A Regional Approach to Promoting Innovative Long-Term Care 」を開催しました。
8月後半にホーチミンで開かれるAPECの関連諸会合の機会を捉えて開催された本フォーラムには、アジア太平洋地域の27国/地域から、約100名の国会議員と議会関係者のほか、各国の政府関係者、研究者、市民社会の代表、医療機関・介護施設・高齢者ケア産業の企業代表など、合計260名が参加。人口の高齢化は今や単に国内問題としてのみではなく、国境を超えた地域の共通課題として取り組むべき課題であること、また、官民部門横断的に取り組む必要があるという認識が広く共有されました。
冒頭、歓迎の挨拶にてティエン・グエン・ティ・キム保健大臣は、人口の高齢化はAPECメンバー国/地域の社会経済のあらゆる側面に影響を与える重要課題であると強調しました。特にベトナムは世界の中でも高齢化のスピードが速く、「高齢化社会」から「高齢社会」注に移行するまでに22年しかかからないと予測されていると自らの危機感を共有し、幅広い知見を共有し討議することで具体的なアクションにつなげたいとの期待を述べました。基調講演の一人、JCIEシニアフェローの武見敬三参議院議員は、高齢化による3つのインパクトとして、第1に慢性疾患の増大とそれによる医療・介護の支出の増大、第2に貧困に苦しむ高齢者の増加、第3に高齢者ケアにあたる人材の不足を挙げ、AFPPD議長としての立場から、各国のポリシーメーカーが高齢社会を見据えた社会保障政策を直ちに打ち出すことの必要性とその政策形成における議員の役割の重要性を訴えました。
日本政府からは、内閣官房健康・医療戦略室の藤本康二次長が登壇し、日本ではリハビリや機能回復を充実させ自宅に帰れる医療・介護システムにシフトしつつあることの具体例を示して紹介するとともに、日本政府が昨年発表した「アジア健康構想」イニシアティブのもと、アジア各国に持続可能な形で高齢者にサービスを提供する事業が育つよう支援し、また高齢者ケアに従事する人材の日本での研修と技術の習得を積極的に推進するなど、日本が各国と互恵的な関係を築きながらアジア全体で高齢化に取り組む計画であることを紹介しました。
続く二つのパネルでは、「コミュニティ」と「ケア人材」を取り上げて議論を掘り下げました。国・地域によって程度の差はあるものの、高齢者ケアの根幹はコミュニティ・レベルでのサービス提供にあるという考えは多くの参加者の共通認識でした。それはコスト効果の高いアプローチであるとともに、住み慣れた土地で生涯を全うしたいという多くの高齢者の希望にも沿うものだからです。一方、人材については、日本のように介護の専門的な職種がある国はまだ少なく、高齢者ケアに関わる人材育成とともに資格制度の確立が必要との指摘がなされました。国境を超えたケア人材還流、資格のハーモナイゼーションや二国間・多国間での相互認証の必要性が提起されたとともに、ケア従事者に対する社会的評価の欠如や人権などの課題も指摘され、活発な議論が行われました。
その他、終日にわたる討議でスピーカーや参加者からは、高齢化はネガティブに捉えるべきではなく長寿は人類が達成した偉業であると認識すべきであること、高齢者ケアにおけるICT活用の可能性、高齢者が健康で自立して社会・経済活動に従事することの重要性などの点も繰り返し提起されました。
注: 65歳以上の高齢者人口割合が7%を超えた社会を「高齢化社会」、14%を超えた社会を「高齢社会」という。
写真アルバムはこちらから。
フォーラム報告書
プログラム
公式プログラム(英文)はこちら をご覧ください。(フォーラム主旨、アジェンダ、スピーカー略歴)
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メディア報道
ベトナム紙をはじめ各種メディアで報道されました。
政府、アジア健康構想の情報発信−15日にベトナムでフォーラム(日刊工業新聞、2017年8月9日)