活動報告
日本国際交流センター(JCIE)は、国際秩序と民主的価値が晒される脅威の性質を理解し、日本としてどのような政策を展開できるのか検討する「民主主義の未来」プロジェクトを2018年9月以来実施し、これまで議員訪米プログラムや国内外のCSOとの対話などに取り組んでいます。その一環として、2021年12月7日に「Enhancing Democratic Partnership in Asia(アジアにおける民主的パートナーシップの強化にむけて)」と題するウェビナーを開催し、日本、インド、インドネシア、韓国、フィリピンからのパネリストと、アメリカ、オーストラリアからのディスカサント、そして世界各地から40名余りの参加者を迎えパネル発表と意見交換を行い、その議論を提言としてまとめました。
本ウェビナーは、12月9日から米政府が主催したSummit for Democracy (民主主義サミット)を前に、多様なステークホルダーによる民主主義に関する対話を活性化させることを目的にInternational IDEA(在ストックホルム)が呼びかけた”Global Democracy Coalition Forum (GDCF) “にJCIEが賛同し、数少ないアジアからの参加団体としてアジアの声を届けるべく主催したものです。7日当日は、JCIEを含む世界各国47の民間組織が、地域ごと、課題ごとのテーマにウェビナーを開催し、合計41のウェビナーが同日に実施されました。翌8日には、全てのウェビナーで議論された内容の要約と提言が取りまとめられた提言書 “Recommendations for the Summit for Democracy” が米国の民主主義サミット事務局へ提出されました。この提言内容は、2022年に対面開催が予定されている次の民主主義サミットへ向けて、引き続き参加団体によって発展させていくことが計画されています。
当日のウェビナーで討議された内容は以下の通りです。
要旨
アジア地域における、歴史、宗教、民族、政治経済体制などの多様性や、報道の自由が制限されていることへの懸念、権威主義国家による情報工作に対する危機感、新型コロナウイルス拡大防止のための規制が社会全般にわたり影響していること、また、それら複合的な要因により市民社会活動家らが置かれている厳しい状況などに触れながら議論が進められた。議論の内容を踏まえ、JCIEは、「民主的なパートナーシップと協力的な枠組みを強化」「アジアのCSOや独立系メディアへの支援を強化」「アジアのオーナーシップの重要性」の3つ提言を示した。民主的パートナーシップは「権威主義に反対するもの」としてではなく、「民主主義に賛成するもの」として推進されるべきであること。そうしたアプローチを効果的にとるためには、地域内の主要な民主主義国である日本、そして韓国などがリードしながら、多国間で連帯し取り組む必要があることなどが盛り込まれている。
議題
Ⅰ. アジア太平洋地域の民主主義:課題と展望
Ⅱ. アジア太平洋地域における民主的パートナーシップの構築に向けて
Ⅲ. 非民主主義国との関わり方
強調された論点
課題
・新型コロナウイルス拡大防止のための規制により、民主主義が更に後退している
・報道の自由が制限されていることや情報工作の影響が深刻である
・市民社会やメディアは強力な役割を果たすことができるが、市民社会の活動空間が狭まっていることが懸念される
・テクノロジーとビッグデータは民主主義制度を弱めることも強めることもできる
対策
・アジアの民主主義国が連帯し、民主主義国の方が人々のニーズにより効果的に対応できることを示す必要がある
・非民主主義国に対して敵対的なアプローチをとるのではなく、民主主義に賛成するアプローチが強調されるべきである
・上記アプローチを効果的にとるためには多国間の枠組みが効果的であることが多く、日本を含む主要な民主主義国が多国間のアプローチや市民社会の関与をリードすることが重要である
3つの提言
1.We should enhance democratic partnership and collaborative framework for cooperation at government and CSO level: Existing regional mechanism could be reviewed to make them more effective and coordinated. Areas for partnership will include promote inclusive development, good governance, social fabric, transparent infrastructure, anti-corruption, digital technology, pandemic, climate change.
政府と市民社会の両輪で、民主的なパートナーシップと協力的な枠組みを強化すべきである。
既存の地域メカニズムが、より効果的で、他との連携が図られたものになるよう見直しすることが考えられよう。パートナーシップの分野として、包括的な開発の促進、良い統治、社会構造、透明性のあるインフラ建設、汚職防止、デジタル技術、パンデミック、気候変動などが含まれる。
2. The vibrant civic space and independent media are indispensable to ensuring transparent and accountable government. Additional mechanism should be developed to extend stronger support to CSOs and independent media in Asia.
活発な市民活動と独立したメディアは、透明性と説明責任のある政府の実現に不可欠である。
アジアの市民社会組織や独立メディアへの支援を強化するための追加的なメカニズムを構築すべきである。
3. In view of cultural and historical diversity, the importance of the Asian ownership cannot be overemphasized. In this regard, Japan and the ROK can play a leadership role in promoting regional democratic partnership. The regional democracies may commit themselves to strengthen their support to democratization efforts including by CSOs and media.
アジア地域の文化的・歴史的多様性に鑑み、アジア諸国によるオーナーシップの重要性が強調されるべきである。
この見地から、日本と韓国は、地域の民主的パートナーシップを促進する上で、リーダーシップを発揮することができる。地域の民主主義国は、市民社会組織やメディアを含む民主化の努力への支援を強化することにコミットできよう。
登壇者
モデレーター:
高須幸雄 (JCIE「民主主義の未来」プロジェクト主査)
パネリスト:
I・ケトゥ・プトゥラ・エラワン(インドネシア平和・民主主義エグゼクティブ・ディレクター)
エドナ・エスティファニア A.Co(フィリピン大学教授)
市原 麻衣子 (一橋大学法学研究科准教授)
キム・フンジュン(高麗大学政治学・国際関係学科教授)
ヤミニ・アイヤール(インド政策研究センター所長)
ディスカサント:
マンプリート・シン・アナン(全米民主研究所(NDI)アジア太平洋ディレクター)
リーナ・リッキラ・タマン(International IDEA アジア太平洋担当ディレクター)
当日の動画はこちら(外部サイト) からご覧いただけます。
民主主義の未来プロジェクトの概要
冷戦終結により共産主義は自壊し、勝利した自由と民主主義が世界に拡散していくと信じられていました。ベルリンの壁崩壊から30年が経った今、世界各地では権威主義的統治手法が拡大し、先進民主国でさえポピュリズムの台頭でぐらつき始めています。今日の世界において、民主主義は顕著に後退していると言っても過言ではありません。
こうした問題意識を踏まえ、JCIEは、国際秩序と普遍的価値が現在どのような脅威にさらされているのかを理解し、日本としてどのような政策を展開できるのか検討する研究プロジェクト「民主主義の未来 -私たちの役割、日本の役割」を2018年に開始しました。
詳細はこちら
▶過去のオンライン会議シリーズ
2020年6月12日開催 第1回 民主主義の未来 Webinar -台湾とインドネシアから学ぶ、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)と民主主義の未来 –
2020年8月5日開催 第2回 民主主義の未来 Webinar – フィリピンに学ぶ、新型コロナ対策の民主主義への脅威 –
2020年11月24日開催 第3回 民主主義の未来 webinar インド太平洋地域における民主的ガバナンス実現のための協力とパートナーシップ構築
2021年6月29日開催 オンライン会議 「インド太平洋地域における民主的パートナーシップのためのサニーランズ原則」
2021年8月10日開催 オンライン懇談会「世界における民主主義・人権の危機と日本の支援」