活動報告
日本国際交流センター(JCIE)では、11月12日に、国際シンポジウム『移住者として生きるー「移民社会」日本と韓国の今とこれから』を開催しました。本シンポジウムは、公益財団法人トヨタ財団の助成を得て実施してきた日韓移住者交流事業の成果を広く共有する機会として開催したもので、外国人コミュニティ、行政機関、企業、NGO/NPO、メディア、大学・研究機関等から約120人が参加しました。
大河原昭夫JCIE理事長は、冒頭の開会挨拶にて、日本と韓国が移住者の増加による社会の多文化・多民族化という大きな社会的変化に直面していることを説明しました。また、その変化を新たな機会と捉えなおす上で当事者の視点が欠かせないことを強調し、日韓に暮らす移住当事者とそのコミュニティに焦点を当てた本事業の意義を訴えました。
『「移民社会」日本と韓国』と題した第一部ではまず、事業の全体コーディネーターを務めてきた李惠珍(イ・ヘジン)JCIEシニア・プログラム・オフィサーが、日本と韓国における移民政策と移住者を巡る変化と現状について報告を行いました。報告では、1980年代後半に移住者・外国人を受け入れる法制度が整っていない中、移住者が急速に拡大した日本と韓国が、移住者の流入にどのように対応してきたのか、統計からみた場合に日韓の移住者を巡る状況はどのようなものなのか、移住者の流入と定着が進展している「移民社会」としての日韓の現状と課題は何かについて説明しました。
その報告を受けて行われたパネルディスカッションでは、日本と韓国の「移民社会」としての現状認識、移住者・外国人の一時的雇用を前提とした現在の受入れ制度の課題、移住者の社会統合における課題と今後の展望について議論を行いました。日本と韓国における移住者のプレゼンスの高まりにより、両国はこれまでの社会の在り方が問われているということがパネリストの共通認識でした。その認識に立って、移住者を支援が必要な存在としてではなく、日本人・韓国人と同等の権利を持つ存在として位置付けていくための取り組みの重要性、移住者と地域住民との接触を増やすための工夫などが話されました。
続く第2部では、日韓に暮らすネパール、ミャンマー、ベトナム、フィリピン出身のプロジェクトメンバーが、日本と韓国それぞれで行われてきた会合や勉強会、コミュニティ訪問、そして相手国で行われた視察訪問プログラムを通じて得られた学びと見識をもとに、移住者として生きる当事者の目線から見えてくる、「移民社会」日本と韓国の姿について議論しました。
まず、フィリピンにルーツをもちながら、日本に暮らす移民一世と韓国に暮らす移民二世という立場の違いをもつ二人のメンバーによる対談が行われました。対談では、暮らす社会が異なることにより直面する課題の違いよりは、移民一世と二世という世代が異なるがゆえに生まれた親子のコミュニケーションの齟齬や、移民2世だからこそ抱えるアイデンティティや言葉をめぐる悩みへの移民1世の気づきなどが率直に話されました。
続くパネルディスカッション『移住者の目線から:「移民社会」日本と韓国の今とこれから』では、日本と韓国における出身国のコミュニティの状況や、、移住当事者としての問題意識、日韓両国社会と移住者コミュニティに求められる視点と取り組みについて議論しました。韓国の移住者メンバーは、国からの支援がないなかで地域社会を中心に培ってきた知恵やきめ細かさをもつ日本の自治体や学校、NGO/NPOの活動が印象的だったと述べました。日本の移住者メンバーは、政府の積極的な支援により、韓国語習得をはじめキャリア支援、医療サービスなどが公的なサービスとして自治体や民間レベルでも提供されている韓国の制度的基盤の整備が学ぶべきものとして述べられました。また、移住者が単なる支援の対象とみなされないための移住者コミュニティの自立に向けた取り組み、多様化していくコミュニティの構成員との連携作り、子どもの教育とアイデンティティに対応するエスニック・スクールの設立など、移住者コミュニティの具体的な取り組みが紹介され、その取り組みをより進展させていくことの重要性が指摘されました。
最後に、韓国側のプロジェクト代表を務めた外国人移住労働者の人権のための会のソク・ウォンジョン所長は閉会挨拶で、移住者にかかわる活動をする日韓の関係者の長い交流の歴史の中でも、出身国の異なる移住当事者がコミュニティのリーダーとして相互交流し、学び合う機会はこのプロジェクトが初めてであったと、このプロジェクトの意義を強調しました。また、ユニークなこのプロジェクトのアプローチにより得られた経験と成果が集約され、次のステップに向けた下地として活用されることへの期待感を述べ、シンポジウムを締めくくりました。
配布資料
・第一部 報告資料:「日本の移民政策と移住者」、「韓国の移民政策と移住者」