活動報告
日本国際交流センター(JCIE)は、地球規模課題としてのグローバルヘルスに対する日本の貢献を推進することを目的に「グローバルヘルスと人間の安全保障」プログラムを実施しています。2018年9月より、同プログラムの一環として、超党派の若手・中堅の国会議員を対象に、グローバルヘルスに関する議員ブリーフィングを開始しました。国境を超える感染症の脅威や、保健医療制度、保健財政などについて定期的なブリーフィングを行い、世界の現状や日本の役割について国会議員の理解を深め将来的にリーダーシップを発揮していただくための機会を提供するものです。
2018年9月6日(木)に開催した第1回ブリーフィングは、ブッシュ政権下で米国の対外エイズ援助を率いたマーク・ダイブル米国ジョージタウン大学医学センター教授をブリーファーに招きました。要旨は以下の通りです。
政策の変化
米国の開発援助にとって、グローバルヘルス分野は全体の4割を占める重要課題となっている。しかし、2000年代の初めにブッシュ政権のもとで大きな政策の変化が起きるまで、保健は決して重視されていなかった。この変化を起こしたものは、(1)途上国の主体性を重視する援助の哲学の変化、(2)説明責任の重視、(3)「良いガバナンス」という考え方の普及、(4)全てのステークホルダーを巻き込む重要性への理解の4点だ。
この変化が起きたのは、上院・下院ともに共和党が過半数を占めていたブッシュ政権の時だった。本来、開発援助とグローバルヘルスは民主党が得意とするところであり、共和党にはあまり馴染みがないテーマであったが、ブッシュ大統領が個人的なリーダーシップを発揮した。
党派・政権を超えた支持の理由
その後、ブッシュ政権下で民主党が議席の過半数を勝ち取った時にも、また、民主党のオバマ政権下でも、この考えは生き残った。トランプ政権下であっても、大統領がグローバルヘルスや対外援助予算の削減を提案する度に、議会の反対によってその削減が覆されている。つまり、米国の議員は党派を超えて、また異なる大統領の下でも一貫して、グローバルヘルスは自分たちのものであり、それこそが世界における米国の役割の基礎となるものだと認識しているのだ。
なぜ、議員の間でグローバルヘルスへの支持が続いているのか。そこには、軸となるいくつかの視点があると思う。第1に挙げられるのは人道主義への支持である。人の命を救う援助は、選挙区でも理解される。第2は、国際社会におけるリーダーシップの必要性だ。大きな国を代表する議員は、(自分の国だけでなく)世界の中での自分たちの役割を考えることを重視している。第3に、メディアが発達したため、他国の人々から米国がどのように見えるかが重要になってきている。なぜなら、安全保障につながるからである。そして最後に挙げたいのは、保健や開発、教育などに投資することが、経済成長につながり、さらには安全保障や社会の安定につながるという考え方である。これはこの15年の間に特に注目されるようになってきた。
日米協力の可能性
米国で議員の支持を得ているグローバルヘルスは、日米両国の議員が協力しうる分野ではないか。米国の人々は、日本を知的リーダー(thought leader)かつ最も重要な同盟国であると認識している。これまでの G7 やアフリカ開発会議(TICAD)と同様、2019年の G20 や TICAD7において日本がリーダーシップを発揮する時こそ、日米が連携していく良い機会となる。資金のあり方や企業セクターの参画促進、ヘルスセキュリティの構築など、日本の人々と協働し、議会同士で協力することは可能だと思う。
日本はいつも、アイディアの最先端にいる。数年前まで世界に知られていなかったが、日本は 1961 年という早い段階で国民皆保険を達成して長寿社会を築き、今や世界中の人々のモデルとなっている。人間の安全保障においても、日本は世界に先行している。日本は、自分たちのグローバルヘルスの財産を誇りに思うべきである。今後も日本のリーダーシップが不可欠である。
ブリーフィングの詳細内容はPDFをダウンロードしてご覧ください。
第1回グローバルヘルスに関する議員ブリーフィング出席議員
自由民主党 | 安藤 高夫 衆議院議員 |
自見 はなこ 参議院議員 | |
田畑 裕明 衆議院議員 | |
牧島 かれん 衆議院議員 | |
公明党 | 竹谷 とし子 参議院議員 |
日本維新の会 | 石井 苗子 参議院議員 |
(所属はブリーフィング実施時・敬略称)
マーク・ダイブル(Mark Dybul) 略歴
ジョージタウン大学医学センター教授同グローバルヘルスとクオリティ・センター共同ディレクター
2004年、エイズ治療が殆ど受けられない国々でのエイズ危機対策を進める原動力として、米国大統領緊急エイズ救援計画(PEPFAR)の制度設計を主導。PEPFARの支援を拡大し、治療アクセスの大幅な向上とエイズ予防・治療コスト低減に尽力した。2006年PEPFARの代表であるグローバルエイズ調整官(大使級)に就任し、2009年まで在任。その後、ジョージタウン大学オニール研究所の国際保健法プログラム共同ディレクター、同研究所名誉客員研究員を歴任。2013年から2017年まで世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)事務局長を務めた後、ジョージタウン大学医学部に戻り、2017年7月に新設されたグローバルヘルスとクオリティ・センターの共同ディレクターに就任。グローバルヘルスの熱心な提唱者であり、これまで25年にわたって、免疫学専門の医師、行政官、教師、そして指導者として、感染症の予防と治療の普及に尽力してきた。ワシントンのジョージタウン大学医学部卒業後、国立アレルギー・感染症研究所に勤務。科学や政策分野の論文多数。ジョージタウン大学名誉博士号など複数の名誉学位を授与されている。