活動報告
日本国際交流センター(JCIE)では、米国ジャーナリストを日本に招き、数週間にわたる幅広い対話・交流を通して、日本及び日米関係についての理解を深めるとともに、さまざまな視点から日本について取材・報道する機会を提供することを目的として、「米国ジャーナリスト・フェローシップ・プログラム」を実施しています。
4回目となる本年度は、6月25日から7月13日にかけて、米国議会・政治、ジェンダー、労働、地域産業のグローバル化、移民といった多彩な関心分野をもつ4名のジャーナリストを招へいしました。(詳しいプロフィールはこちら)
一週目の共通プログラムでは、様々なセクターのリーダーより日本の政治、経済、社会、外交についてのブリーフィングを受け、日本についての多面的な理解に努めました。また、それぞれの問題関心や専門分野にそって、ブリーファーと活発な意見交換を行いました。
一週目の共通プログラムの最後日となる6月29日には、公開セミナー「トランプ時代のアメリカ:ダイバーシティ社会のゆくえ」を開催し、メディア、財団、NGO/NPO等の方々からご参加いただきました。セミナーでは、人種や性別、価値観等の違いを受容するダイバーシティ社会としての米国はどう変化しているのか、地域によってどのような違い、特徴があるのか、2018年に行われる中間選挙においてダイバーシティ・イシューはどう位置づけられているか等について、フロアーとも活発な議論を行いました。
4名のフェローは、東京での共通プログラム後、各自取材テーマに沿って、1週間から2週間にわたり名古屋、浜松、広島、福島、岡山等を訪問し、熱心に取材を行いました。
フリージャーナリストのイビー・カプート氏は、日本のエネルギー政策と省エネの取り組みについて、政府担当部署や、新エネルギーの専門家、環境運動家等へのインタビューとともに、高層ビルにおける省エネシステムの運用状況と効果についても直接見学しながら取材しました。また、日本の働き方と長時間労働について、日本政府の働き方改革関連法案や取り組み、長時間労働を減らす等新しい働き方へ取り組む企業、長時間労働・過労死問題に取り組む活動家・当事者とその家族等への取材に取り組みました。3週目には広島を訪問し、被爆者の方とその子供についての支援・援護の状況や、当事者の体験・思い等について取材を行いました。
オハイオ州を拠点とするWCPN/ideastreamと経済・ビジネス専門のラジオニュース番組Marketplaceのリポーターのエイドリアン・マー氏は、地元のオハイオ州と関連付けたテーマとして、オハイオ州の牛乳屋からスタートしたコンビニエンスストアの「ローソン」と、鉄の街における産業の衰退と新たな挑戦について取材を行いました。また、2週目、3週目には岡山や福島等を訪問し、近年受け入れ人数が急激に増えている外国人技能実習制度について、技能実習生を受け入れている企業や、監理団体、サポート団体、さらには技能実習生本人へのインタビューを行う等、様々な視点から取材に取り組みました。
外交雑誌フォーリン・ポリシーのベンジャミン・ソロウェイ共同編集者は、日本における移民・外国人住民をめぐる議論や現状について、名古屋と浜松を訪問し、地方行政や国会議員、NGO/NPO、企業などのホスト社会としての取り組み、課題を取材しました。さらには、日本に暮らす外国人住民のライフストーリを取材することで、外国人住民・移民の日本社会についての認識・関わり方等への理解に努めました。他方、日本の仏教をテーマに、少子高齢化や、檀家制度と地域コミュニティの変化といった日本社会の変化に対応する寺院、僧侶の新たな取り組み等について取材を行いました。
ウォール・ストリートジャーナルのバイロン・タウ記者は、憲法改正とアメリカによる東アジア等地域における安全保障戦略の変化について、政治家、憲法学者、外交専門家、憲法改正に反対する運動家等への取材を行いました。また、米朝首脳会談の実施や、米中の関税引き上げなど対決政策が浮上するなど複雑な動きを示している国際情勢を受けてのトランプ政権と安倍政権の関係についての取材に取り組みました。
プログラムに参加したフェローからは、共通プログラムを通して日本の政治、社会、経済等を多面的に理解することができ、個別取材を行ううえで問題関心をより明確にすることができたとの評価とともに、東京と訪問した各地で取材に対して真剣に応え向き合ってくださった人との出会いから、日本についての新たな発見と気づきが得られたとの評価をいただきました。今後、日本での取材に基づく記事・報道が発信されることで、米国における日本への理解とネットワークの広がりによる関係強化に大きな役割を果たすことが期待されます。
ご協力いただいた関係者の皆様に御礼を申し上げます。
2018年度フェローの執筆記事一覧
・“Seven Decades after The Bomb, Children of Hiroshima Victims Still Worry about Hidden Health Effects”, Ibby Caputo, Public Radio International(PRI)-The World, March 26, 2019
・“Japan’s Shrinking Labor Force Is Finding New Ways to Fight Karoshi-‘Death by Overwork'”, Ibby Caputo, Public Radio International(PRI)-The World, January 10, 2019
・“Japan Expands Use of Foreign “Interns” to Address Labor Shortage”, Adrian Ma, NPR/MarketPlace, October 10,2018
・“Japan Could Ease Tensions with North Korea-If Northe Korea Comes Clean on Its Abduction of Japanese Citizens” ,Ibby Caputo, Public Radio International(PRI)-The World, October 4, 2018
- “Japan Trade Officials and Companies Take a Nuanced Approach to U.S. Tariffs,” Adrian Ma, Marketplace, September 5, 2018
- “How a Small Dairy Store from Ohio Became One of the Biggest Names in the Japanese Convenience Store Industry,” Adrian Ma, Marketplace, September 4, 2018
- “Take Me Out to the Japanese Ball Game,” Byron Tau, Wall Street Journal, August 24, 2018
- “Abe’s Window of Time for Amending Japan’s Pacifist Constitution Narrows,” Byron Tau, Wall Street Journal, August 12, 2018
- “Why This Hiroshima Survivor Dedicated His Life to Searching for the Families of 12 American POWs,” Ibby Caputo, PRI’s The World, August 6, 2018
- “Postcard from a Japanese Steel Town,” Adrian Ma, Marketplace, August 1, 2018