活動報告

日本国際交流センター(JCIE)では、「外国ルーツ青少年未来創造事業」(以下、SYDRIS)と住友商事(株)の社員参加型の社会貢献活動プログラム「100SEED」との連携事業を実施しています。

 

この連携事業の一環として、2022年3月3日に、認定NPO法人Dialogue for People副代表理事でフォトジャーナリストの安田菜津紀氏をお招きし、「100SEED多文化共生ウェビナー:『ともに生きる』とは―私たちが気づいていない『心の壁』について考える―」を開催しました。ウェビナーには、住友商事グループの役職員約120名が参加しました。

 

 

ウェビナーで討議された内容は以下の通りです。

 

要旨

安田氏は、2021年3月名古屋入管収容中に逝去したスリランカ女性ウィシュマ・サンダマリ氏のスリランカ現地での家族への取材の話に触れながら、在留資格を失ったことで簡単に「不法滞在」のレッテルが張られるが、なぜそのような状況におかれてしまったのかという背景や構造を考える必要があるとともに、人権という観点からのアプローチが欠けていてはいけないことを訴えました。

 

また、日本国内に暮らす多様な人々の中に、命の危機から逃れ、難民とならざるをえなかった人々について、彼らが何から逃れ、日本でどのような困難に直面しているのかについて、食文化にまつわる写真とエピソードを通して彼らの声を紹介し、日常では見えない彼らのつらさ、悩みを考えるきっかけは身近なところにあると述べました。同時に、申請者の0.5%しか難民として認定されていない制度上の難民受け入れの現状が、制度が求める極めて高い客観的証明の非現実性への問いではなく、「偽装難民」という偏見を生み出す構造がみられることについて指摘しました。

 

最後に、ルーツについて語ることができなかった安田氏の家族が歩んできた歴史について触れながら、何も知らないでいることや気がつけずにいることがマジョリティ(多数派)の特権ともいえるが、日本で「他者」として扱われている人々の存在に気付き、彼らの状況や気持ちを理解しようとすることが「共に生きること」の始まりであると呼びかけました。

 

安田氏の講演を受けて行われたJCIEシニア・プログラム・オフィサーの李惠珍によるインタビューでは、日本に暮らす多様な移住者の姿が見えにくい現状や、恣意的な差別、無自覚な排除を作り出す構造に個人として、企業として、地域としてどう向き合い、外国にルーツをもつ人々が「自分として生きる」ことができる社会を創っていくかについて話し合いました。

 

安田氏は、技能実習制度のように外国人を労働力としてしか見ない制度や、多様化している社会に対応できる専門知識をもつ人材の不足などの制度が作り出す構造の問題と合わせて、大人の言動を見て子どもがまねをして無自覚に差別をする個人が作り出す構造について指摘しました。それゆえ、マジョリティの大人がマイノリティの痛みに気づくことが大切で、具体的に思い浮かぶ人がいることで心の距離が全く違ってくるとして、人を思い浮かばせて想像力を働かせること、そしてその気づきの輪を広げていくことが重要であると述べました。

 

安田菜津紀氏の略歴

1987年神奈川県生まれ。フォトジャーナリスト。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困の取材を進める。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)他。上智大卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

 

 

これまでの「100SEEDxSYDRIS」ウェビナー

 

 

 

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