活動報告
2021年4月5日、日本国際交流センター(JCIE)は、第6回グローバルヘルスに関する議員ブリーフィング「ワクチン外交と日本―今、何が求められているか」を開催しました。講師には、鈴木一人東京大学公共政策大学院教授、今川昌之一般社団法人 日本ワクチン産業協会理事長の2名をお招きし、COVID-19ワクチン開発の世界における現状、日本でワクチン開発が遅れた背景、日本が取り組むべき課題などについてお話しいただきました。COVID-19の感染拡大予防の観点から、今回はテレビ電話会議形式での開催となりましたが、党を超えて7名の国会議員が参加されました。
ブリーフィングの概要は、以下の通りです。
鈴木一人 東京大学公共政策大学院教授
- 日本でワクチン開発が遅れた背景として、人口構造が少子高齢化していることや、ワクチンに対する懐疑主義が強いことが影響している。また、過去にワクチン薬害の問題もあり、官民ともワクチン開発には慎重である。その結果、予防のためのワクチンよりも治療薬の開発・販売の方が製薬会社にとってビジネスになりやすかった。加えて、日本の製薬会社は、いわゆる「護送船団方式」に守られ、グローバルに見ると小規模な会社が多く、技術的に分散し、研究開発の規模も大きくなりづらかったとも言える。
- これまで多くの先進国において、感染症は「途上国の問題」であるとみなされてきた。ところが、 COVID-19 が特殊であったのは、先進国を直撃したこと、社会的介入にも失敗したこと、その結果1年近く社会経済活動を停止せざるを得ない事態をもたらしたことであった。このような事態において、ワクチンを囲い込もうとする「ワクチンナショナリズム」が盛り上がることとなった。
- 中国やロシアの国内人口あたりのワクチン接種回数は必ずしも多くなく、国内よりもむしろ輸出や国外への無償提供に回していると見ることができる。
- Ivana Karásková and Veronika Blablová, ” The Logic of China’s Vaccine Diplomacy”, Diplomat , March 24, 2021 によると、中国は少なくとも 35 か国にワクチンを無償提供し、30 か国に輸出している。今後も中国製ワクチンを調達する国が出てくるものと思われ、中国が外交上ますます影響力を高めるものと予想される。
- 感染症は自然災害と同様に、いつか必ずやってくるものであり、またどんな感染症が襲ってくるか分からない。従って、ワクチンの開発・製造能力は、日本の防災・危機管理として位置付けるべきである。
- 外交戦略としてのワクチンを考えたとき、特定の国による独占的な影響力の行使を防ぐためにも、国際協調体制である COVAX によるワクチンの公正な分配を支援すべきである。
今川昌之 一般社団法人日本ワクチン産業協会理事長
- 日本国内では、塩野義製薬、第一三共、アンジェス、 KM バイオロジクスなどの各社がワクチンを開発しているものの、ゼロからの出発であったために世界的に見て出遅れている。平時にいかに危機への対応を進めておくかがパンデミック時の対応に影響してくる。
- ワクチンは産業界から見れば、抗がん剤などの治療薬に比べ、売り上げ利益が小さく、投資対象としての魅力が薄い。この事実を変えない限り、次のパンデミックに対応ができないのが課題である。
- ワクチンの開発・製造は国の危機管理と位置づけ、各企業に任せるのではなく、国の司令塔機能を強化し、研究開発・製造を推進すべきである。
- 日本でワクチン開発が遅れている状況への対応策案 としては以下が考えられる。
- 感染制御は危機管理の要であるため、平時から有事を意識した司令塔を国に置き、産官学各ステークホルダーが方向性をもって動ける体制を構築する。
- 危機管理下におけるワクチン開発 推進に大きな力を発揮する米国の生物医学先端研究開発局(BARDA)のような、日本版BARDA を新設する。
- 産業界への魅力を高めるため、ワクチン事業に対する Pull 型 (国家備蓄や買い上げ)、 Push 型 (研究開発支援インセンティブ)を導入する。
- 新型コロナウイルスワクチン開発で先行した企業は、ベンチャー企業である。イノベーションにおけるアカデミアと企業の間の死の谷( Death Valley )を克服するためにベンチャー企業を育成する。
報告書全文は、こちらからお読みいただけます。
[参加国会議員]
安藤 高夫 衆議院議員(自由民主党)
石井 苗子 参議院議員(日本維新の会)
伊藤 孝恵 参議院議員(国民民主党)
黄川田 仁志 衆議院議員(自由民主党)
櫻井 周 衆議院議員(立憲民主党)
牧島 かれん 衆議院議員(自由民主党)
山川 ゆりこ 衆議院議員(立憲民主党)
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[代理・陪席]
神戸 翼 衆議院議員 安藤高夫事務所
児玉 篤志 衆議院議員 吉田統彦事務所
原田 隆史 参議院議員 自見はなこ事務所
(五十音順敬称略、所属はブリーフィング実施時)
講師略歴
鈴木一人 東京大学公共政策大学院教授
1970年生まれ。2000年英国サセックス大学ヨ-ロッパ研究所現代ヨーロッパ研究専攻博士課程修了。2000年から2008年まで筑波大学国際総合学類准教授として勤務。その間、立命館大学、北九州大学などで非常勤講師を兼任。2008年から北海道大学公共政策大学院准教授、2011年から教授。2012年から2013年にはプリンストン大学国際地域研究所客員研究員。2013年から2015年までは国連安保理イラン制裁専門家パネル委員。2020年から現職。また、新型コロナ対応・民間臨時調査会ワーキンググループメンバー、福島原発事故10年検証委員会座長として、報告書の取りまとめにあたった。国際政治学、科学技術外交を専門とする。主著として『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞受賞)など。
今川昌之 一般社団法人日本ワクチン産業協会理事長
1992年に徳島大学大学院(薬学修士)修了、2006年に神戸大学大学院(経営学修士)修了。2008年に武田薬品工業に入社し、同社のワクチンビジネス部グループマネージャー(2011年)、日本ワクチン事業部渉外統括部長(2016年)を経て、2020年10月より日本ワクチン事業部ヴァイスプレジデント兼事業部長。その他、(公財)予防接種リサーチセンター理事、(公財)日本感染症医薬品協会理事、一般社団法人日本ワクチン産業協会理事長を務める。2018年8月から2020年5月には、日本製薬工業協会ワクチン実務委員長も務めた。
なお、本事業は、地球規模課題としてのグローバルヘルスに対する日本の貢献を推進することを目的に実施される「グローバルヘルスと人間の安全保障」プログラムの一環として、2018年9月より開始しました。国境を超える感染症の脅威や、保健医療制度、保健財政などについて中堅・若手の国会議員を対象に定期的なブリーフィングを行い、世界の現状や日本の役割について理解を深め、将来的にリーダーシップを発揮していただくための機会を提供するものです。
グローバルヘルスに関する議員ブリーフィングの過去の開催報告は、以下のリンクからご覧ください。
- 第5回「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアジア諸国の闘い」
- 第4回「母子保健への資金調達でSDGs達成を実現する――グローバル・ファイナンシング・ファシリティ(GFF)の役割と日本への期待」
- 第3回「顧みられない熱帯病(NTDs)―― 今求められる日本の知見」(共催:JAGntd(Japan Alliance on Global NTDs)、SDGs・プロミス・ジャパン)
- 第2回「迫り来る薬剤耐性(AMR)の脅威、いま必要な政治のリーダーシップ」(共催:日本医療政策機構(HGPI))
- 第1回「米国のグローバルヘルス外交における連邦議員の役割」