活動報告
日本国際交流センター(JCIE)は、2019年8月29日、アフリカ連合委員会(AUC)、Gaviワクチン・アライアンス、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)、日本政府、世界銀行グループ、世界保健機関(WHO)との共催で、TICAD7公式サイドイベント「アフリカにおける持続可能な保健財政構築を目指して」を実施しました。本イベントには、国際機関関係者、日本及びアフリカの政府関係者、開発協力の実務家、学界、経済界、市民社会等から約150名が参加しました。イベントのプログラムブック(登壇者略歴含む)はこちらをご参照下さい。
本イベントは、2019年2月、AU総会の折に開催された「保健への投資に関するアフリカン・リーダーシップ会合(ALM)」で、AU加盟国・地域が保健への国内資金を増やすことを約束したことを受けて、いかにアフリカ諸国において保健への国内資金を動員するか、また、それを効果的かつ持続可能な形で活用する上での外部資金の役割に焦点を当て、議論を展開しました。概要は以下の通りです。
報告書(英文)
(報告書和文は後日掲載予定です)
概要
開会セッション
大河原昭夫JCIE理事長による開会に続き、冒頭、大統領がAUの保健財政のためのチャンピオンを務めるルワンダのウッジエル・ンダギジマナ財務・計画大臣、セネガルのアブドゥライ・ジュフ・サール保健・社会活動大臣が基調講演を行った。両国では、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に対する政治的コミットメントの下で、昨今保健予算が拡大し、健康指標も改善していることが報告され、保健を通じた人的資本への投資が持続可能な開発の原動力であることも確認された。一方、今後さらにヘルスケア・テクノロジー(ヘルス・テク)の活用を推進すると共に、ヘルス・テクそしてファイナンシングの仕組みにおいてもイノベーションが必要であることが指摘された。
日本政府を代表し歓迎挨拶を行った武内良樹財務官は、日本は、経済発展段階の早い時期にUHCを達成するよう各国の取り組みを後押ししていることに触れ、UHCを長期的に維持していくためには、保健システムの強化に加え、国内資金を引き出す持続可能な財政制度が不可欠であると強調した。
アミラ・エルファディルAUC社会問題コミッショナーからは、ALMで合意したコミットメントに基づき、国内資金動員のための地域ハブの構築、「アフリカ諸国における保健医療分野の自国資金動員スコアカード」による進捗の把握等が進められていることが紹介された。アフリカ諸国がグローバルファンドの増資に貢献することは、アフリカが自分たちのコミュニティの課題を解決していくことにオーナーシップを持つことであり、保健への国内資金動員そして持続可能な財政に関わる取り組みを維持していくためには政治的な意思が重要であることを強調した。ALMに見られる保健への国内資金動員に対するアフリカのリーダーシップ、政治的意思の高まりについては、多くの登壇者からも歓迎の声が上がった。
パネルディスカッション
続くパネルディスカッションは、ジョージタウン大学医学センターグローバルヘルス実践・インパクトセンターのマーク・ダイブル共同ディレクターの進行により進められた。パネリストからは、開発パートナー、市民社会が、アフリカにおいて持続可能な保健財政を構築する上で果たし得る役割、その際に考慮すべき原則が確認された。
(1)公平性の担保とPHC
UHC2030市民社会参画メカニズム(CSEM)のメンバーである、WACI Health(アフリカの全ての人に健康を)のローズマリー・ブル事務局長は、資金は、保健医療サービスに十分アクセスできていない最も脆弱な人々に支援の手が届くよう慎重に使われなければならないとして、「公平性(equity)」の問題を提起した。この点については、多くの登壇者が賛同し、さらにプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)に焦点を当てることが強調された。
さらに、Gaviのセス・バークレー事務局長は、PHCが健康ニーズの9割をカバーできるとし、PHCへの優先的な投資が高い配分効率を上げることができると指摘した。加えて、コミュニティがPHCを求めるようになることが必要であり、携帯等の情報通信技術を使い保健医療サービスの提供状況に関するデータを広く収集し、さらには、そのデータを政府がサービスの質を向上させる圧力をかけるために活用されることが提案された。
ビル&メリンダ・ゲイツ財団のクリストファー・エライアス グローバル開発プログラム担当プレジデントは、投資効果に注力する必要性を指摘し、PHCを優先すること、医療費の自己負担額を減らすことに加え、「PHCパフォーマンス・イニシアティブ(PHCPI)」を導入することで、インプットとアウトプットの関係性を理解し、PHCシステムを継続的に改善していくことの重要性を指摘した。
(2)持続可能性
保健財政に対する経済及び人口動態による影響についても議論がなされた。WHOアフリカ地域事務局のマチディソ・モエティ事務局長は、いまだに保健財政に占める自己負担比率が大きいと指摘し、個人や世帯を財政的に保護するより良いスキームの必要性を訴えた。加えて、健康保険制度を導入した国でも保健財政の持続可能性が課題となっている現状が共有され、経済状況に応じて保健財政戦略を継続的に見直す必要性を伝えた。
加えて、世銀のアネット・ディクソン人間開発担当ヴァイス・プレジデントは、アフリカの急速な人口増加が、各国の医療費を引き上げ、世帯に対する医療費負担がさらに重くなる可能性を指摘した。
(3)開発支援の役割
国際協力機構(JICA)の瀧澤郁雄 人間開発部次長は、UHCを推進する際、各国のオーナーシップの下で、パートナー間の調整が進められることの重要性を指摘した。何人かの登壇者からは、2018年にWHO等の保健分野の11国際機関によって合意された「すべての人に健康な生活と福祉を保証するための世界行動計画(The Global Action Plan for Healthy Lives and Well-being for All)」の下、持続可能な開発目標(SDG)3の達成を後押しする政策枠組みの一つして検討が進められている「持続可能な財政アクセラレーター」がパートナーの協調を助ける点が強調された。
世銀、グローバルファンド、Gaviなど多くの組織が保健分野での国内資金の動員を後押ししている。グローバルファンドのピーター・サンズ事務局長は、資金供与の際に、相手国政府に保健分野の国内資金の増額を条件づけたり、保健財政に関わる能力強化を支援したり、AUや他の国際機関とのパートナーシップにより支援対象国が保健に対する国内資金を増やすよう支援している仕組みを紹介し、低所得国自身がリーダーシップを発揮できる環境を作ることが開発支援機関の役割であると述べた。
他方、国内資金動員は重要であるものの、全てを国内資金では賄えない状況であり、保健に対する開発支援を増やすことの重要性も再確認された。その上で、グローバルファンド、Gavi、国際開発協会(IDA)、アフリカ開発銀行(AfDB)の増資の成功を願う声がアフリカの登壇者、開発パートナーいずれからも上がった。
ディクソン世銀人間開発担当ヴァイス・プレジデントは、IDAが脆弱な国や最貧国のPHCや保健システム強化を支援する重要な資金源となっており、グローバルファンド、Gavi、グローバル・ファイナンシング・ファシリティ(GFF)等とのパートナーシップを通じて、低所得国の財政管理能力や予算の効率的な執行に必要な能力を強化する役割を担っていることを紹介した。また、能力強化に関しては、保健医療制度を超えた、財政管理制度やソーシャル・セーフティネットの構築を支援すること、そして水・衛生への投資等、全政府を挙げたアプローチの必要性を述べた。
他方、民間セクターへの期待について、元銀行家であるサンズ グローバルファンド事務局長からは、民間セクターが大きな財源になると考えるのは幻想であり、民間セクターは、サービス・デリバリーやイノベーション、インフラ、データ処理等のキャパシティを改善する上で大きな貢献をなしうることが指摘された。
閉会セッション
最後にアフリカ開発銀行総裁を務めたドナルド・カベルカ グローバルファンド理事会議長と、ナイジェリア財務大臣を務めたンゴジ・オコンジョ=イウェアラGavi理事長が総括を行った。
カベルカ グローバルファンド理事会議長は、教育分野での昨今の成果を例に挙げ、UHCは達成しうるとし、より多くのアフリカの国々がUHC達成に向けてリーダーシップを発揮することの重要性を強調した。またイノベーションは費用対効果を上げるためにも重要であり、民間セクターとの協働を奨励した。保健大臣と財務大臣の連携は、単に資金動員のためだけではなく、資金をより効果的に活用するためにも進められるべきであり、開発パートナーが支援するプログラム間の連携の必要性を指摘した。また、PHCを優先し、保健医療費を狭く考えるのではなく、資金の効果的・効率的な活用に繋がる衛生分野等への投資も含めて考えるべきと訴えた。
イウェアラGavi理事長は、保健への投資が良い政治であると共に、良い経済であることを強調した。加えて、アフリカの人口増加の問題に言及し、女性と少女に対する教育がより持続可能な成果に繋がる点を指摘した。また、各大臣が自分の管轄するアジェンダごとに予算を請求するのではなく、何が本当にインパクトがあるのか省を超えて検討すべきであると述べた。そして最後に、今後は単に資金動員を目指すのではなく、効率的国内資金活用(Efficient Domestic Resource Use: EDRU)により目を向けるべきと主張した。
(本概要は、日本国際交流センターの責任で取りまとめた)