活動報告
2014年11月10日、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に関する日本・世界銀行共同研究プログラム最終報告書の出版を記念するシンポジウム(日本政府、世界銀行共催、日本国際交流センター協力)が国連大学本部(東京)で開催され、約160名が参加した。
シンポジウムの動画(YouTube)
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シンポジウムでは、日本政府を代表して、塩崎恭久厚生労働大臣、御法川信英財務副大臣、中根一幸外務大臣政務官、本プログラムの共同議長を務める武見敬三参議院議員(日本国際交流センターシニア・フェロー)からご挨拶いただき、日本が自国の経験を踏まえながらUHCを国際的に推進することの重要性について改めて確認された。また世界銀行グループを代表して、塚越保祐駐日代表からは、2030年までに極度の貧困を撲滅するという同グループの目標を成し遂げる上でUHC達成が最重要課題であり、今後も日本政府と協力して途上国の保健システム強化とUHC達成に向けた支援を行うと述べられた。
■ UHCを達成する道筋:11カ国事例研究の成果
本共同研究では、保健医療サービスの提供に必要となる費用を、いかに確保し抑制・管理するかという保健財政の問題、質の保証された医療を提供するのに要となる保健人材をどのように養成・規制・配置するかという保健人材の問題に焦点を当て、11カ国(バングラデシュ、ブラジル、エチオピア、フランス、ガーナ、インドネシア、日本、ペルー、タイ、トルコ、ベトナム)を事例対象に、いかにUHCを政策目標として導入し、それを達成・維持しようとしているか分析した。また、政策の実施を左右する各国の政治経済状況についても分析している。
前田明子氏 マイケル・ライシュ氏
本セッションでは、総括報告書の主要著者である前田明子 世界銀行リード・ヘルス・スペシャリストとマイケル・ライシュ ハーバード大学教授からは、①UHC目標を導入したばかりの財源が限られた国、②カバー範囲の無保険者や貧困層への拡大を試みている国、③UHCを達成するもその公平性とサービスの質の問題に直面している国、④経済・労働環境の変化の中でUHCの持続可能性の問題に直面している国、という4つに類型化された11カ国の傾向について発表された。
発表スライド
小寺清JICA理事からは、4つの類型化が支援対象国においてUHCに向けた包括的な戦略を策定する上で有用であることが強調され、JICAのUHCへの取り組み状況と今後の方向性が報告された。
渋谷健司東京大学教授からは、UHCをグローバルに推進するための諸機関の役割・連携のあり方を検討すること、そして高齢化の下で日本が直面している問題を他国と共有し、2016年のG8等の機会に新しいモデルを示すことが提案された。
石井澄江ジョイセフ理事長からは、本研究に欠けていた視点として、サービスの受け手の立場からUHCのあり方を研究すること、そして12月12日のUHCデーを一般の理解を得るために活用すべきことが提案された。
質疑応答では、UHCの対象に介護を含める必要性、最も貧しい人々を制度の中心に置くための方法、援助機関の政治経済分野への関与、米国の医療制度の行方について議論が行われた。
小寺 清氏 |
渋谷健司氏 |
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■ 世界に活かしうる日本の経験
池上直己氏
最初に日本研究報告書を監修した池上直己慶應義塾大学教授が、日本から世界に共有しうる教訓として、UHC達成までの道のり、診療報酬制度の仕組みと役割、医師配置を決定する金銭的・非金銭的要因、医療従事者養成の歴史的重要決定、そして今日的課題を中心に発表した。ジョン・キャンベル東京大学特別研究員からは診療報酬改定がどのような政治プロセスで決定されてきたかについて、また西村周三医療経済研究機構所長からは医療財政の状況と医療保険に見られる格差について発表された。
発表スライド
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西村周三氏 |
スウィット・ウィブルポルプラサート タイ保健大臣顧問からは、タイが日本から学んだ教訓として、複数の保険プログラムを持つ意義、民間セクターのあり方、出来高払いの利点、レベルの異なる医療専門家の必要性、施設でのケアを中心とする介護の問題点という5点が共有された。
島崎謙治 政策研究大学院大学教授は、日本の経験の応用可能性について、被保険者の管理や所得の捕捉、医療提供体制、経済成長、そして実務処理の実効性確保を含む諸条件が必要であることを指摘した。
藤本康二 内閣官房参事官は、低中所得国で台頭する中高所得層のニーズを満たす医療サービス提供体制を構築しつつ、それが貧困層に対する医療提供体制強化に寄与する循環を作ることの重要性、ICT(情報通信技術)といった技術革新の可能性を指摘した。
宇都宮啓 国立国際医療研究センター局長は、厚労省保険局医療課長としての経験も踏まえ、公平性を重視し、段階的に構築されてきた日本の制度を低中所得国が導入する際、公平性を追求する意思を持って、段階的に導入を進める必要があると指摘した。また、国立国際医療研究センターに期待される役割が、医療から公衆衛生分野の協力へと広がっていることも紹介した。
熊川寿郎 国立保健医療科学院部長は、昨今、低中所得国のニーズが技術的な研修から、保健医療制度の包括的マネージメントへ移行していることを紹介した。また、感染症、非感染症、高齢化という3つの山を乗り越えてきた日本の経験に基づいて、保健、医療、介護をパッケージとした新しいUHCのコンセプトを国際的に打ち出し、さらにリバースイノベーションを活かせば、日本にもメリットが生まれるだろうと指摘した。
質疑応答では、複数の保険プログラムの計画的な導入の可否、データへのアクセス可能性が医療アクセスの公平性に与える影響、新しい技術を手の届く価格で提供する重要性について議論が行われた。
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島崎謙治氏 |
藤本康二氏 |
宇都宮 啓氏 |
熊川寿郎氏 |
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プログラム
13:30-13:40 | 開会挨拶
御法川 信英 財務副大臣 |
13:40-15:00 | UHCを達成する道筋:11カ国事例研究の成果
プレゼンテーション: 前田明子 世界銀行グループ人間開発局リード・ヘルス・スペシャリスト[モデレーター] ■ UHC政策の政治経済学 マイケル・ライシュ ハーバード大学公衆衛生大学院国際保健政策武見太郎記念講座教授 コメント: 小寺 清 (独)国際協力機構(JICA)理事 質疑応答 |
15:15-16:50 | 世界に活かしうる日本の経験
プレゼンテーション: 池上直己 慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授[モデレーター] ■ 日本の保健医療政策における政治経済学 ジョン・キャンベル 東京大学高齢社会総合研究機構特任研究員、ミシガン大学政治学部名誉教授 ■ マクロ経済的視点から見た日本の社会保険制度―財政状態と制度間の不公平 西村周三 医療経済研究機構所長 ■ 日本の経験から何を得られるか――タイの試み スウィット・ウィブルポルプラサート タイ保健大臣顧問(グローバル・ヘルス担当) コメント: 島崎謙治 政策研究大学院大学 質疑応答 |
16:50-17:00 | 閉会挨拶
中根 一幸 外務大臣政務官 |
17:10-18:00 | レセプション [レセプション・ホール]
乾杯挨拶 塩崎 恭久 厚生労働大臣 |
※ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは
「すべての人が適切な予防、治療、リハビリなどの保健医療サービスを、必要な時に支払い可能な費用で受けられる状態」
(WHOによる定義)